こんにちは。
早速ですが、今回も私自身の体験に基づき作りあげたお話です。
しばしお付き合いください。
セミナー会社にいた関係で、数多くの講師の方とご縁がありました。セミナーのテーマが技術的な専門性が必要な分野であったことから、講師として登壇いただいていた方々も、技術者として様々実績を上げてこられた多士済々が揃っているセミナー会社でもありました。
そのような状況下で、あるタイミングから私自身は一つの分野の運営管理を任される状況になったのですが、その初期段階でのある講師とのやり取りをお伝えいたします。
決して良好事例というものではありません。
むしろ皆さんには反面教師にしていただきたいものです。
ですが、講師業務とはどのようなものか、評価される講師になるにはどのような点を意識すればよいか、という視点でもお役に立つのではないかと思います。
それでは本題に入りましょう。
第1章 事務局の存在とセミナーのパフォーマンス評価の考え方
セミナー会社の責務は、良いセミナーを開催してお客様に満足いただき、そのうえで、お客様がその持ち帰った内容で自分、自社の事業展開の発展につなげていただく、ということと考えています。
その結果生まれる評判により、さらにお客様に来てもらい、自社も事業繁栄につなげていく、という点は誰もが異論のないところでしょう。
その会社のセミナー事務局も、お客様に書いていただくアンケート内容の確認、評価のみならず、熱心に事務局担当者がセミナー中に室内に常駐し、問題なくセミナーが進行しているかどうか、講師の補佐役兼チェック役、という立場で活動を行っていました。
同じ内容のセミナーであっても、やはり講師によってお客様の評価はばらつきます。当然同じ講師であっても毎回のお客様評価はばらつくものですので、講師が違えば、アンケートの評価点や具体的なお客様記入コメントの内容も相当に差が出てきます。
可能な限り全講師がその評価点を上げられるように手を打つことが事務局の大事な仕事ですが、そうはそう簡単にできるものではありません。
なぜなら、セミナーパフォーマンスを決めるのは講師の力量だけではないからです。
教材の出来栄え、研修環境の快適さ、という部分のお客様の評価を左右する大きな要因になります。
新米課長の事務局担当田中さんも、その点は理解しているものの、セミナーパフォーマンスを決める最大の要素は講師のパフォーマンスと信じて、可能な限りセミナー会場に顔を出すことによって、講師一人ひとりの特質の把握、そして良い点と補強が必要な点を見出すように努力を重ねていました。
同じ教材を使って、同じカリキュラムで進行するセミナーなのに、講師が違うことであまりにもお客様の評価が異なる点を問題視し、何とかお客様評価が芳しくない講師の底上げを図ろうと日夜努力をしていました。
さらにその際には、1度の判断では誤った認識をするかもしれないので、同一講師のパフォーマンスを少なくとも2回以上は確認し、その上で確信が持てたことを踏まえて講師とのすり合わせに臨もうとしていました。
ここからこの田中課長の奮闘ものがたり、として以下をお読みください。
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お客様から評価していただくレベルを底上げするために、田中課長は良好なパフォーマンスを上げている講師とのやり取りから開始した。それによって勘所を掴みたかったからである。
ただしその際でも、改善すべきと感じる点はゼロということではなかったので、遠慮なくコメントすることを心がけていた。
講師の方が年長者でもしかすると失礼になるかもしれないが、セミナーパフォーマンスを上げていくためにはそれらの講師の理解、協力は必要不可欠であり、熱い想いを胸に年長者の講師に向かっていったのであった。
そして良好なパフォーマンスの講師とのやり取りから掴んだ勘所に基づき、徐々にパフォーマンスがぱっとしない講師の状況確認そしてフィードバックのやり取りに進んでいった。
そしていよいよお客様評価の上がらない講師の一人の状況確認に進んでいった。
状況確認をしていよいよお客様がお帰りになった後の講師とのやりとりの際に、こんな遠慮のかけらもない言葉を発してしまった。
「テープレコーダーが話しているみたいに聞こえます」
何という暴言であろうか。
たとえ受講者の立場から本当にそのように感じたとしても、言い方に工夫のかけらもない。だがそのときは、お客様の声を代弁しているのだ、というくらいの思いで面談に臨んでいた青二才、というのが田中課長の実態だった。
さすがにその講師も、たじろぐ表情を見せた。
当たり前である。
今まで事務局担当者からそのようなフィードバックを受けたことは皆無であり、それなりの自負をもって講師業務を何年も続けてきていたのである。
またセミナー会社の経営者ともしっかりとしたパイプを構築していたので、一介の担当者風情が何を言っているのだ、となってもおかしくないのである。
しかし、人物のできた方であった。
そのような暴言を吐いた田中課長に対して、
「貴様は何をたわけたことを言っているのだ!」
などという罵声が発せられることはまったくなかった。
「そうか」
と一言だけ。
おろかな田中課長はその段階になっても、ベテラン講師に向かって履いた暴言を暴言として認識することもできていなかった。
人物の出来上がったその講師のお陰でその時の面談は何事もなく、そしてその後に田中課長は社長に呼び出されることもなく、課長から降格することもなく仕事を続けることができた。
一方で残念ながらその講師のパフォーマンスが向上することもなかった。
2年後の契約更改時、その講師の名前は継続契約をお願いするリストからは消えていた・・・。
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第2章 理想の講師像
第1章のストーリー、少々誇張し過ぎかもしれませんが、田中課長のスタンス、言動をどのようにお感じになりましたか。
講師の方と比べて、人間の出来がお話しにならないことはすぐにご理解いただけると思いますが、一方で、講師パフォーマンスを評価する視点は間違っていませんでした。結果として、講師の方の選別をそれまでよりも厳しくしていくことによって、業績面ではどんどん良い方向に進んでいったのです。
ちなみに第1章で登場した講師の方は、かなり前のことではありますが、熱血技術者集団の素晴らしい成果を取り上げるNHK某TV番組で取り上げられたチームメンバーで、業界の中ではある程度はお名前の知られた方でした。
そして実際のセミナー講師の際にも間違ったことを言われている、ということは基本的には全く感じられず、経験に裏打ちされた確かなもの、というのはお持ちの方でした。
しかし、残念ながら受講者評価はハイレベルということにはなりませんでした。
なぜか。
ここが講師業務の大きなポイントになるのです。
一言で言えば
「双方向コミュニケーション」
お感じいただけますでしょうか。
一方通行では、たとえ発言内容が正しくても、なかなか相手の方の理解は進みません。
よほど興味あることで自らが情報に飢えていて、やっとその情報に巡り合って感謝感激という状況であれば、一方通行でも問題ないでしょう。
ですが、そのようなケースに遭遇する頻度は?と考えてみていただければすぐおわかりになると思います。
あなたご自身の経験でそのような経験をどれくらいお持ちでしょうか。
短時間のセミナーであればそれに近い状況は生まれるでしょう。
ですがその状態が数時間続くというレベルにハードルを上げるといかがですか。
途端にその体験は、ん~ん、ないかな・・・ということになりませんか。
eラーニングも昔に比べれば相当に浸透しました。
ですが、コロナ禍によってこれだけオンライン学習の環境や体験場面が増えた今であっても、eラーニングという学習形態オンリーになることはありません。
人にとって、やりとり、交流がどれだけ大事か、ということです。
そうなると、講師に求められる必須要件は、受講者とのやり取りができる人、それもできる限り一人ひとりに合わせた綿密なコミュニケーションが取れる人、ということになります。
もちろん、理想の講師像、となると、単に双方向のコミュニケーションが取れれば良い、というものではありません。それ以外に当然、話す内容に関する熟達度、専門知識ということはあることが前提にはなります。
ですが、自ら講師を志す、という方であればそちらの研鑽はわざわざ私が申し上げずともできている、あるいはできるはずですから、私がご心配申し上げることもないはずです。
第3章 講師の基本
最後に、ここまでお伝えしたことのまとめとして、改めて講師に求められる基本的なことは何か、という部分の整理をしたいと思います。
何を基本と考えるか。ここまでお読みいただいたあなたであれば、それはこういうことでしょ、と思い浮かぶ事項が何項目かあるのではないでしょうか。
それらを否定して今ここで私の持論を押し付けたいわけでは全くありません。
その頭に思い浮かんだことと、これから記すことが合致する部分があれば、気にすることなく今まで通りの視座でお取り組みを続けていただきたいと思います。
一方で、もし、あれっ、それは入っていないな、という方がおられたら、それが自分には必要な考え方かどうかを、少し時間を取って考えてみてください。
話を引っ張ってすみません。
私の考える、講師にとって必要な基本は何か。それは、
受講者の成長を願うこと
です。
セミナーを受講しにこられる方は、何かしらの変化を望まれているものです。
大きな変化か小さな変化か、それは人によって違います。
でも何かを変えたい、あるいは付加したい、自分でやってみたけどできない、だから時間とお金を使ってセミナーに来られているわけです。
そのことを常に意識しておけば、セミナーの何かしらの部分は、その受講者の反応するポイントを見つけられるはずです。事前に講師として想定した箇所ではないかもしれませんが。
これは自分のお金を使って参加する方という意識レベルの高い方の場合だけでなく、上司や会社の命令で強制的に受講することになった、という参加者と向き合うときも同じです。
その場合、ハードルは少々上がりますが、その方も自分自身の成長は願っているものです。
その部分とそのセミナーのコンテンツで合致する部分がどこにあるかを探し出す努力をしていけば、多くのケースでその人の顔がほころぶ場面に出会うことができます。
その人の成長を願う
大事にしていただければと思います。
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました。
(了)
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